「新情報時代と学校事務」(その2)
元全事研電算化検討委員会
私たちは前回,学校事務とコンピュータとの関連を,従来のような「コンピュータの
使い方・使われ方」の紹介ではなく「新情報時代」をキーワードにして模索したいと提
案しました。今回はもう少しこの部分を補足し,次回からの個別のテーマへと連載を引
き継ぎたいと考えます。
なお,原稿をまとめるにあたっては,ML(メイリングリスト:同時配信式電子私書
箱)を利用した電子座談会形式にするつもりでしたが,単純に発言を繋ぐのではなく,
発言の趣旨を損なわない程度に再構成を行いました。
1.コンピュータの位置づけ
【仕事の地域帰属性】
☆ まず,学校事務におけるコンピュータの位置づけの問題だけれど,今までは,とも
すれば,「読み・書き・そろばん」のための道具という印象が強かったと思う。
☆ それは,今もそうだと思う。コンピュータの理論や可能性よりも今使えることが大
事なのだから。どんな素晴らしい機械でも,日常の役に立たなければ,それこそただ
の箱だよ。
☆ その日常性への密着が,むしろ学校事務へのコンピュータの普及を遅らせてきたの
ではないだろうか。つまり,これは学校事務の抱える問題そのものなんだろうけれど,
学校事務という仕事では全国的な基盤を持っていながら,日々の実務作業レベルでは,
市町村単位はおろか,都道府県単位でも随分と差がある。
☆ だから,ある地域で普及しているソフトであっても,他の地域ではそのままでは使
えない。したがって,大量に売れるということが考えられないから商業ベースに乗り
にくい。結局は何とかして自分たちで作る。自分たちで作るからには,より自分たち
に密着したもの使いやすいものを,ということで,さらに地域性が増す。こういう循
環かな。
☆ そうなると,機械だけを手に入れても目の前にある仕事を片づけるのに,すぐには
使えそうもないから,今度の機会を待とうと言うことになる。
☆ そう,それとすぐに役立てたいとなると,どうしても作業自体をアシストするソフ
トが欲しくなる。作業の軽減は重要なテーマだけれど,機械を使って作業の部分だけ
をアシストしてしまうと,学校事務の全体が見渡しにくくなると思う。せっかく,使
う事務職員自らが開発に携わるのならば,個々の作業の機械化よりも学校事務という
システムをどう捉えて,そのどの部分を機械にアシストさせるのかという視点は,欲
しい。
【帳簿の二重性】
☆ それと,帳簿の二重性という観点からも考えないとね。養護学校に昨年度までいた
けれど,そこでの就学奨励事業を計算して都に出すのに,私はコンピュータを使って
計算した結果を都の指定様式に転記していた。それでも,その仕事は途中の課程が複
雑だったので,コンピュータを使うメリットはあったけれど,間接的な効果と言う気
がしたね。
☆ 古い話になるけれど,給与システムが電算化されたから,今の若いモンは給料の計
算がわからなくなってしまった。というような意見を,以前はよく聞いた。確かに,
自分で給料調書に直接金額を記入するのと,入力帳票にコードを記入するのでは,随
分と意識は違うと思う。でも,それは入力帳票だけを見るのか,給料システムを理解
するのかの差であって,手書きか電算かの問題ではないと思う。こういうことは,つ
ねに機械化につきまとう。携わる人間自身の問題を,あたかも機械がもたらしたかの
ようにね。
☆ でも,私たちの日常には時間的な制約も多い。使い始めるまでに莫大な時間や労力
が必要だとすれば,果たして効率化と言えるのかという問題はある。とすると,長大
なシステム化よりも手近な作業からコンピュータを使うというのは有効な手段だよ。
例えば,表計算ソフトはそろばんよりもずっと効率的だよね。集計をしているといつ
の間にか金種まで計算されるのだから。
【コンピュータへの動機】
☆ そもそも,学校事務にコンピュータを利用する動機は何だろうか。
☆ 一般的には,事務職員の負担を軽減化することによって,学校運営への参画とか…
☆ いや,そういう観念論ではなく具体的な意味で言うと。つまり,コンピュータのど
ういう機能が事務職員の負担を軽減化すると言えるのだろうか。
☆ やはり今までは,「読み・書き・そろばん」の部分をアシストすることが,事務職
員の負担を軽くしてきたことは否めないと思う。量の多い作業や複雑な計算を要する
部分では,大きな効果があっただろう。
でも「コンピュータで時間を浮かし判断事務へ」論は,今となっては少々現実離れ
している気がする。むしろ,コンピュータそのものを学校経営参加への道具にするこ
とを考えるべきだと思う。
☆ 従来は,もっぱら時間的な効果が強調されていた。
☆ もちろん,それが最大のものだろうけれど,正確さという効果も大きかったと思う。
それと,時間的な効果には2種類あると思う。一つは,直接的な効果で,これは今ま
で2時間かかっていたものが1時間で済むようになった,というもの。
もう一つは,時間の分散化というか平均化というか。日々のデータ処理によって,
たとえば月末には,一月分の報告があっという間にできるというようなもの。
☆ 効果の波及の度合いからして,後者の方がより重要度が高い?
☆ 日々の時間が平均化されると言うことは,より計画的に仕事が行えるということに
なると思っている。学校運営への参画などにエネルギーをより向けやすくなると考え
られる。もちろん,時間のあるなしに関わらず,一学校職員として,学校運営に積極
的であるべきだし,時間を浮かすためにコンピュータを使うというのではなく,もっ
と直接的な道具としての利用が望まれる。
【計算処理からデータ処理へ】
☆ そのコンピュータへの期待の変遷を,計算処理からデータ処理へ,というと誇大表
現かな。
☆ いや,その言葉は言い得ていると思う。例えば,事務処理に最も多用されるであろ
う表計算ソフトは,実に容易に縦横の計算ができる。正確かつ迅速にね。これだけで
も十分に利用価値はあると,初めて使った人は誰しも思う。しかし,表計算ソフト
(と使用する人)に期待するべきは,合計を計算したり並べ替えて印刷するというよ
うな現状の報告だけではなく,現状を分析し,予測する機能だとむしろ思う。
☆ 表計算ソフトで作成した表の一部の数字を変更すると,全体の数字が瞬時に変わる。
あるいは,きわめて簡単にデータの並べ替えができる。こういう機能をもっと利用し
ようということですね。
☆ 数字は,個々ばらばらであっては,単なる要素にすぎないけれど,操作する側が意
義付けをする事によって有意義なデータとなって,そのデータを使って情報を提供す
ることは大事だよね。
☆ 数字を置き換える,つまりシミュレートするわけですよね。シミュレーションのた
めの種々な条件をどう設定するかなどは事務職員の腕の見せ所でしょう。
☆ 事務職員に求められるものがそこまで来ているんじゃないかと思う。本川さんが,
以前やっていたように,会計執行状況表を単なる報告で終えないで,数字を置き換え
ることで一月後を予想する,あるいは,半年後を予測する。それは,予算の効率的な
執行に繋がるだろうし。なによりも,裏付けのある主張ができると思う。
【経営参加への道具−情報処理】
☆ ああ,あれね。私としては,ああいうものを使って,誤解を招くかも知れないけれ
ど,「予算を背景に教育へ口を出していこう!」ということがむしろ言いたい。だい
たい,素人が教育に口を出すのがいけない風潮を断ち切りたい。しかし,それはそれ,
アンタッチャブルな部分があるわけで,予算を切り口に言えないことを言ってしまお
う! という考え方がもとであって,必ずしも予算の見込みをシュミレーションする
のが目的ではなかった。
つまり,予算のカーブを予想しても,予想屋にはなれるけれど,それはコンピュー
タの好きな「事務の先生」でしか相変わらずないと言う気がする。その結果を,どの
ように実現するかと言うところが大事だと思う。
☆ つまり,学校事務のコンピュータの利用は個別の作業アシストから始まった。もち
ろん現在もなおその意義は大きいけれど,学校事務への要求が,単なる計算結果の報
告からデータを取り扱い,変化を予測する情報処理にと向かっている,という解釈で
すね。
☆ そう思いたい。数値をただ提供するだけではなく,数値をもとに次のアクションを
提言することがより重要だと思う。
2.新情報時代の認識
【情報の双方向性】
☆ では,前提の話しはそれくらいにして,先月号で積み残した「新情報時代」の話し
に移りましょう。私たちは「新情報時代」を定義するものとして,情報の双方向性を
考えました。しかし,「双方向性」そのものの定義については,インターネットを利
用した手段であるホームページ(HP)とメーリングリスト(ML)を開設して,ぶ
っつけ本番で考えようということにしました。そうでしたよね。
☆ 前回の結論のもう一つの側面は,現代では,情報は受け身だけではなく個人のレベ
ルでも情報発信することが可能になった,というものだったと思う。
事務職員が「情報を発信」というレベルですぐに思い浮かぶのは,日々の仕事だと,
今予算編成の時期ですから「お金がないのでしっかり節約を」と教職員に伝えること
とか,学校事務誌にも掲載されることのある「事務室便り」のことか,あるいは,そ
ういう内容のモノをコンピュータを用いてスマートにやってしまうということかもし
れないが,私には,そのどちらとも違うように思えるけど。
☆ 確かに,今の例にあるようなことは重要なことではあると思う。特に「事務室便り」
は「知らせる工夫」の実践としても意義は大きいでしょう。ただ,これが「情報発信」
なのかと問われると,私も少し違和感を覚える。厳密な言葉の使い分けはできないけ
れど,「情報発信」と言うよりは「現状の説明」という気がする。
【情報のダイレクト化】
☆ 今例にあげたことは,一つの学校という範囲内の実践として定着していると思う。
それは,学校事務を語るのというよりは,自分の仕事の内容を説明しているのではな
いだろうか。「情報の双方向性」の別な意味は情報の個人性にあると思うんだけど,
個人からの発信が可能になったように,情報も個人のところにまで運ばれてくるよう
になった。フィルターなしでね。前回指摘したように,今は情報過多の時代でもある
と思う。行政や司法などのフィルターなしで個人のところに情報がダイレクトに届く
のは,また個人の価値判断を鋭く問われることになるかもしれない。パソコン通信や
インターネットの特徴は,不特定多数との情報交換だけれども,発信者の知らせたい
内容と,受信者の知りたい内容とがちょうど一致するようなことは少ない。お互いに
意識のズレを調整しながら,情報を共有しようとしなければ,単なる「出たがり」で
しかなくなる。
☆ 確かに私たちは「新情報時代」という観点を核にして連載をしようと話し合ったけ
れど,学校事務や事務職員から話題がかけ離れてしまうのなら,コンピュータ雑誌に
でも連載を変えた方がいい,ということにならないだろうか。
☆ もちろんそうだよ。あくまでも事務職員とコンピュータとの関連を解き明かしてい
こうというのが目的なんだから。
☆ だから,それは今という時代に立ってでしょう。もしかすると,今,現実社会で急
速に失われているのは,「想像力と共感」かも知れない。私たちの場合,地域社会へ
のそれであり,あるいは遠く離れた仲間へのそれかもしれない。コンピュータという
無機質な存在を介して,「想像力と共感」を沸き上がらせたい。だいたい今のコンピ
ュータ雑誌なんてコンピュータの使い方じゃなくて,買い方ばっかりを紹介している
ようなものなんだから,学校事務誌(の特にこの連載)の方がよっぽどためになるよ。
【擬似的空間(サイバースペース)】
☆ じゃ,前回少し触れたサイバースペースのことを続けよう。
☆ MLを通じて,仮想の街を作る。そこは,MLの参加者が仕事をしている学校があ
る。当然単数配置ね。架空の街だけど一つの街だから,本来学校事務の内容は同じは
ずだけど,実際には参加者数だけ,つまり学校の数だけ学校事務がある。私たちは,
自分のリアル社会での学校事務を語ることによって,この街の学校事務を,本来の姿
の一つの学校事務に「戻す」作業をする。極めて簡単に言ってしまえば,「擬似的社
会で現実の学校事務を語る」というのは,こうだと考えている。
☆ たとえば家に帰って,今日学校でこんなことがあってね,という感覚で話ができる
かな。今日あったことを今日知らせて,受け取る側もリアルタイムに反応できる。
☆ 離れた場所にいながら,時間と情報を共有して,一つの街の学校事務の再生を共同
作業する。
☆ それが果たして,今の学校事務職員の望む情報なんだろうか。学校事務職員にとっ
て有意義な連載へと繋がるだろうか。
☆ 大丈夫だよ。MLとHPでの試行は継続するけれど,連載自体は次回から個人の設
定するテーマとなる。たとえば,宮崎県の「情報取扱主任」の件や渡辺さんも開発に
参加したという,宮崎ソフトの紹介も,渡辺さんの担当の折りには聞けるだろうし。
丹治さんには,ぜひデータベースの話を書いて欲しい。
☆ 神戸からは,全校に設置される「次世代防災通信システム」の紹介を兼ねて,「勤
務時間内」の「仕事」としてのインターネットやパソコン通信の状況について報告し
たい。これで神戸市には二種類の端末機が設置されることになる。
【時間と情報の共有】
☆ MLでもきっとさまざまな意見がでてくるだろう。単なる現状報告であっても,情
報の即時性は実感できると思う。情報を発信する側にとっては,何気ないことでも,
受け取る側にとっては重大な価値があるかもしれない。そういう予測不可能な面も大
いに期待できる。
例えば,規則,論文等何度も繰り返して使用する情報が電子データ化されているこ
との意義を,私たちがどう理解できるかということ。また,編集,印刷,出版,ある
いはホームページ作り,データの遠隔地への送付といった利用は現実的で,実務者に
は切実な要求に最早なっている現状。さらに,印刷もワープロの紙出力を写真製版し
たり,ワープロからポストスクリプト・ファイルに出力して製版したり,写植システ
ムに直接電子データファイルを読み込ませるなども一般化している。こういう状況を
理解しつつ,私たちがコンピュータという道具で情報という武器をどのように「教育」
に活かせるかというかという論点は押さえようと思う。
☆ サイバーな情報とリアルな情報という言葉があるよ。今更「情報は足で集めたリア
ルなものに限る」とは言わないけれど,繰り返しになるけれど,情報を価値化するの
は受け取る側の責任だということははっきりさせておきたい。あくまでも,サイバー
な情報はサイバーなんだから。
☆ HPとMLの現状はどうですか。
☆ 5月14日現在,HPの参照回数は約300回。MLは21名の参加です。この連
載が始まる6月号発売時点(5月15日〜20日前後)で,現在の試験運用から正式
運用に変更する予定です。
MLは少しずつ参加者が増えてきている状態で,北海道から宮崎に参加者はわたっ
ています。自己紹介から徐々に,各地の紹介や連載への意見の交換が行われるように
なってきています。
☆ まだサイバーシティー・スクールマネジメントにはほど遠いかな。一人参加者が増
えれば,学校が一つ増える街というのは,少しワクワクするものがあるね。
でも,前回の前書きでも触れたけれど,コンピュータは道具として非常に有用なも
のかもしれないけれど,たとえばパソコン通信やインターネットで画面をのぞくとき,
その画面の向こうには生身のヒトがいるという事実を忘れないようにしたいね。
(文責 木村信哉)
【「新情報時代と学校事務」ML参加の方法】
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