5月24日(日) 入院第12日目。めでたく退院の日。空はどんより心は晴れ晴れ。

 夕べもなんやかやとあまり熟睡は出来なかった。そのために、朝の目覚めはあまりよい物ではない。横になっているのが苦痛なので体は起こしているが、頭の中はまだ寝ている。が、それもきっと今夜からは解消されるだろう。やっと家に帰れる。とにかく今一番したいこと、ぐっすりと眠ること。

 そんなわけでまた駄作が出来た。則は髪の毛のことを気にしているらしく、今のところ殆ど抜けていない状態を見て、「切らなくてもよかったね。」と言ったので。

 「腰までの 黒髪切りし 我が妻の 思い届けと 天に祈らん」

 「両手にて 切りし黒髪 握りしむ 夫の思い 胸にぞしみる」

 「黒髪を 切りて少しも 惜しくはなし 今欲しいのは 真の命ぞ」

 「わが夫の 愛あればこその この乳房 いつの日にぞか 恩返しやせん」

 10時を過ぎた。いつもと違って今日はテレビを見ながら時を過ごす。ここのテレビはテレビカードというのを買ってみる形式になっているのだが、それが後2時間半近く残っているからだ。つまり、今日退院するとは思わなかったから、今日の巨人戦の分の時間だけ残しておいたので、それをせっせと使っている。[病院を出る順さん]

 A医師は昼過ぎに来ると行っていたが、あの先生は突如として現れるのでその辺のところはよく分からない。今外に見えたのが本人のような気がする。(このあとの部分、順さんは則が書いているから良いといて書いて無し。)

 高円寺の駅を降りて、「帰ってきたという感想はどうですか?」と則に言われたが、特にどうという感慨はなかった。気持ちはちっとも弾まない。多分にこれで終わりじゃないからだ。始まりといっても良いくらいの気分なのだ。病院にいるときは常に誰かがいて気を使ってくれるし、食事だって黙っていれば目の前に出てくる。が、これからは全て、気持ちのコントロールも含めて全て自分でやらねばならない、多分にそう言う気持ちがあるから、ちっとも弾まないのだ。また抗癌剤をするというのも気が重い原因だ。

 夕食はおいしかった。御飯はあまり進まなかったが、シューマイも焼き鳥もパクパク食べた。病院のとは違う味付けが新鮮だった。その後、入浴した。洗髪してすっきりした。外見の体の方はこうして徐々に回復していくのだろうな。

 夜は自分の布団。ゆっくりと眠ろう。


則裕の記録

 今日は目覚まし時計を止めて寝ていたが、それでも5時には習慣で起床。昨日の洗濯物を乾燥機に入れ、順さん宛の手紙を持って家を出る。昨朝と同じ時間、同じコース、でも、今日は日曜日ということもあって、また天気が今ひとつはっきりしないこともあってか、人々ので足は悪い。従って特急型車両の4席を独占して寝そべって来れたので楽。

 予定の退院の日なのだが、雲行きが少し怪しい。帰宅の時間までもってくれればよいのだが、ただ天気とは反対に順さんの気分は多分晴れやかなことだろう。

 今日はA医師が来るのは3時頃だろうからと、10時頃ヨーカードにパソコンの本を買いに行く。昼はあまり順さんは食べなかった。もったいないので、半分くらい私が食べた。思っていたよりは早くA医師は2時前には来た。順さんに前回ホルモン云々の話をしていたので、どうも違うなぁと思っていたら、どうも閉経後だと思っていたらしい。つまりは、選択の幅無く抗ガン剤の次回投与となる。最初の投与(1ターンの1回目)から数えて2ターン目の最初は4週間後の6月12日となり、外来の看護婦のいる月曜日に予約をするように言われる。2ターン目の後半は19日でこれも同時に予約するように言われた。

 今日のA医師は風邪で苦しそうだったので、話はそれくらいで終わったが、その後その間いたと同じかそれ以上いて、ネットワークの話をして帰った。よくわからないけれど、どうも彼は12日に私も一緒に来るものと思って話をしていたようで、その日は付き添いで行かなければないらしい。

 その後少し手間取った。ちょうど午後の検温の時間と重なったので、ナースセンターにいたけれども、うまく連絡をつけられなかったようだ。結局検温の看護婦が回ってきて、いろいろな処理をしてもらった。また今後の生活についていくつか質問した。それによれば、生活は殆ど普段通りでよいこと、またシールはなるべく剥がさないこと、小さく剥がれてきたら眉毛切りのようなものでその部分だけとること、風呂にも普通に入ってよいこと、時々反対側に出来るケースもあるから注意して10時の方向を特に念入りに検査すること、などを教えてもらった。[自宅前で]

 細かな手続きや何やらを終わって、外へ出ると雨だった。まず病院の売店で順さんの傘を買って、その後ヨーカードー迄行って、私の長めの傘を買ってから、駅へ向かった。駅に着くと、丁度3時22分の電車が来るところで、首尾よく殆ど待つことなく乗車できた。電車もどうやらこうやら座れたので、良しとしよう。今日も日曜なので、ちょっと迂回したコースで帰らなければならないので、時間がかかる。電車の中の順さんはずっと寝ていた。

 自宅最寄り駅について時、雨足は相当強くなっていた。順さんに感想を聞くと、今朝出かけていま帰ってきた・・・という風な感じらしい。急いで夕食のおかずを買いながら帰る。自宅到着5時を少しわまる。帰宅途中選挙の立て看板を順さんは見て、今日選挙ならまだ間に合うから行くという。雨の中出かける。国民の義務を果たしたというわけ。[投票所にて]